全国生産の6割強を占める、高知産ユズ。
実は今、その高知のユズが「KOCHI YUZU」として、世界から熱視線を送られているのをご存知でしょうか?
2010年には約2,600万円ほどだった高知産ユズの輸出額は、2019年には3億円を超えるほどに成長。
日本では馴染み深いユズが今、世界で注目される果物となったその軌跡を、高知のユズと製菓メーカー・明治がコラボした製品「メルティーキッス柚子」の記者発表会で行われた、高知県庁の産業振興推進部 地産地消・外商課 輸出振興室長、揚田徹さんのプレゼンをもとに紐解いてみたいと思います。
県が誇る「ユズ」を世界の「YUZU」へ
高知県がユズの輸出に本格的に取り組み始めたのは、2010年のこと。
来る人口減少に備え、国内だけでなく、海外マーケットにも目を向けるべきだと考えた県は、自県が日本一の生産量を誇る「ユズ」に注目しました。
「他国でもユズは作られているが、高知には、高品質のユズを作るのに必要な気候条件、激しい寒暖差と十分な日照量・降雨量が揃っている。ほかの国にひけをとることもなく、輸出品としても最適の品だ」
しかし、派手にプロモーションを実施する予算はありません。
ではどうやって世界に、高知のユズを認識してもらうのか?
そこで注目したのが、「シャワー効果」というマーケティング方法。情報発信力のあるシェフに高知のユズを使ってもらい、口コミを広げていくというものでした。
一歩目・シンガポールへの進出
そんな世界進出の第一歩は、高知県の国外事務所があるシンガポールからスタート。2010年に開催されたシンガポールの食品展示会(FHA)に、県内の4つの事業者が出展しました。
当時、シンガポールではまだ珍しかったユズを見て、ブースに訪れたお客さんは口々に「これはレモン? グレープフルーツ?」と尋ねたと言います。そのたびに、「これはレモンでもグレープフルーツでもありません。“ユズ”という名の日本の柑橘類です」と説明。
分かりやすく「ジャパニーズレモン」と言うこともできましたが、そう説明してしまうと、レモンと競争することになってしまうため、あえてオリジナルの果物であることを主張したのです。
その結果、いくつかの飲食店で高知産ユズの使用が開始。
中でも懇意にしてくれたシェフと組み、15品目のユズメニューを提供する賞味会を開催。そのなかの1社がスターバックスと提携している大手菓子メーカーだったことから、その後、シンガポール全土のスターバックス店舗に高知のユズスイーツが展開されました。
また、2011年には大手飲料メーカーの商品に高知のユズが採用され、シンガポール全土のスーパーに商品展開。
こうして、シンガポールへの進出は大成功の結果となりました。
二歩目・フランスへの進出
勢いづいた県が、次に進出することを決めたのは、フランス・パリ!
フランス・パリといえば、食の世界的な情報発信地。この地で認められれば、東南アジアやアメリカなど、世界中への輸出が可能になる、と踏んだのです。
しかし、いざ進出してみると、ある大きな課題があることに気がつきました。
2011年、パリの二つ星レストランで開催した、高知ユズの賞味会でのこと。シェフやパティシエ、食品メーカー、ジャーナリストなど、およそ150名の参加者に、高知県産ユズを贅沢に使ったフルコースを提供。そこで、ある意見が続出しました。
それは「ユズ玉が見たい」というもの。
実はこのとき、日本とEUの間で植物検疫の取り決めがなかったため、ユズ果汁と皮しか持ち込めなかったのです。
その声に、高知県はすぐさま動きました。知事自ら農林水産省に、フランスと植物検疫の具体的な内容を取り決めてもらえるよう、働きかけたのです。
その熱意に農林水産省もスピーディに答えてくれ、わずか数ヶ月で両政府が輸出条件に合意。2012年には高知県北川村のユズ園地が、EUの園地指定を受けることに成功。同年10月にフランスで開催される欧州最大の食品展示会「SIAL」出展を目指し、EUの輸出基準を満たすユズ栽培を開始しました。
こうしてついに、EUの輸出基準を満たしたユズが無事に完成!
およそ3トンのユズを用意して「SIAL」に出展したところ、思った以上の大きな反響に驚くことになります。
なんと、ユズ玉の価格が1000円と高価格にもかかわらず、ブースにお客さんが殺到。あっという間に完売してしまったのです。
ユズ皮や果汁といったユズ加工品も、ユズ玉をきっかけに魅力を知ったシェフたちから次々と注文が集まりました。
こうして、フランスでも「KOCHI YUZU」の魅力が認められる結果となったのです。
世界で愛されるKOCHI YUZU
世界的な食の情報発信地・フランスで認められたKOCHI YUZU。現在では、ベルギーやスペイン、オーストラリア、デンマーク、アメリカなどでも賞味会を開催し、徐々に世界での認知を高めてきています。
また、2016年にはEU、香港、シンガポールで、2017年には中国での商標も取得。
冒頭でも紹介した通り、取り組みを開始した2010年からおよそ10倍以上の輸出量にまで成長しました。
ユズの世界進出は今、単に県民所得の増加だけでなく「うちのユズは世界で売れているんだ」という農家の誇りにもなっています。
今後のマーケットは、まだまだ広がる余地があります。私たちゆず活部員が進める「#ゆず活」も、国内のみならず、海外の人たちにも届くよう伝えていきたいと思います。